森を守ってきた伝統農法

昨年10月、タンザニア政府は同国の全世帯のうち約90%の家庭がバイオマス由来のエネルギーに頼っていると発表しました。その内訳は木(薪)が63.5%、木炭が26.2%。残り10.3%のうち、ガス(LPG)が5.1%、電気が3%、その他が2.2%となっています。

 

タンザニアの森林減少の最大の原因は、日々の煮炊きに用いられる薪炭材確保のための森林伐採であり、昨年の国勢調査で示された3.2%という高い人口増加率と相まって、森林への圧力が一層強まることが懸念されます。

 

キリマンジャロ山に暮らすチャガ人は、“キハンバ”と呼ばれる農畜林混合の伝統的な農法を営んでいますが、そこでは樹木と様々な作物が一緒に育てられています。樹木はその下で育てられているコーヒーの庇陰や畑の地力維持、家畜の飼料を提供するほか、家庭で用いられる薪や焚きつけ用の枝葉の一部を供給する役割も担っています。キハンバは森林への負荷軽減も図っている優れたシステムだと言うことができます。

 

キリマンジャロ山に暮らすチャガ人が営む“キハンバ”の様子

キリマンジャロ山に暮らすチャガ人が営む“キハンバ”の様子

 

しかし近年キハンバは、従来のような機能を果たせなくなっています。システムを支えてきた伝統水路や畑に養分を提供してきた家畜堆肥の調達が困難となったためです。伝統水路の水源があり、また家畜の飼料となる草などを刈っていたかつての生活の森(「ハーフマイル・フォレスト・ストリップ」と呼ばれていた)が国立公園に取り込まれ、水路や家畜の維持が難しくなりました。その結果、キハンバの荒廃が進んでいます。

 

山麓住民の知恵によって築かれたキハンバの健全性を保つことが、ひいては森林の保全にも寄与します。そうした視点がいまの政策には欠けています。人々から生活の森を取り上げることが森林保全ではないのです。

 

村人たちによって植林されたかつての“生活の森”。現在は国立公園に取り込まれ、利用は許されなくなった。

村人たちによって植林されたかつての“生活の森”。現在は国立公園に取り込まれ、利用は許されなくなった。