~人間排除は自然を守れるか~バッファゾーンの効用

先日、キリマンジャロ山麓のロンボ県で、作物の食害など地域住民を長年苦しめてきたヒヒやサルに対し、天然資源観光省が銃による追い払い、駆除に乗り出したとの報道がありました(※)。

 

※ 現地紙「ムワナンチ」 1/8付電子版(スワヒリ語):

 “Rombo kutumia risasi kuwafukuza nyani” (ヒヒの排除に銃弾を使用)

 https://www.mwananchi.co.tz/mw/habari/kitaifa/rombo-kutumia-risasi-kuwafukuza-nyani-4079862

 

ロンボ県における獣害は、かつて国立公園と村の間に横たわっていたバッファゾーンの森(幅数百メートル)が2005年に国立公園に取り込まれ、国立公園と村が直接接するようになってから激しさを増しました。

 

国立公園に取り込まれる前、バッファゾーンの森は地域住民の生活の森(日本いう里山の森)として利用されていた森でした。日常的に人々が利用するため、そこを超えて野生動物が村まで入ってくるのを防ぐ役割も果たしていました。まさに緩衝帯(バッファー)としての機能を果たしてきたといえます。

 

キリマンジャロ山の衛星画像。もともとの国立公園は、森林帯より上部だけであった。

画像: キリマンジャロ山の衛星画像。もともとの国立公園は、森林帯より上部だけであった。

 

国立公園拡大の様子(赤矢印)。(1)がもともとの国立公園の下限、(1)~(3)の間が森林帯、網がけのある(3)が、バッファゾーンの森(森林帯の下限内側に沿って設定されていた)。バッファゾーンの下側に多くの村が存在している。

画像:国立公園拡大の様子(赤矢印)。(1)がもともとの国立公園の下限、(1)~(3)の間が森林帯、網がけのある(3)が、バッファゾーンの森(森林帯の下限内側に沿って設定されていた)。バッファゾーンの下側に多くの村が存在している。

 

 

バッファゾーンが国立公園とされ、人々による利用が禁止されて以後、ロンボ県では数十頭からときには百頭を上回るヒヒやサルが村に侵入するようになり、畑の作物を荒らす(人によっては全滅に近いほどにまで)だけでなく、女性を見分けて襲う、家畜(ヤギなど)を食べてしまう、さらには赤ちゃんをさらって逃げるなど、直接人命に関わる問題にまで発展していました。

 

こうした深刻な被害に対し、地域の村人たちは悲鳴ともいえる訴えを長年政府に対して行っていました。しかし政府は野生動物は国にお金をもたらすものとの立場で、積極的な対応をせずにきました。

 

2021年になってようやく鐘でヒヒ、サルを追い払おうとしましたが、これらの動物はすぐに鐘に慣れてしまい。効果はまったく上がりませんでした。最近は記事にもあるように罠も仕掛けたようですが、捕獲数0の結果に終わったようです。そこでついに銃による追い払い、駆除となったようですが、効果がどれほどあるかについては疑問を持たざるを得ません。

 

作業にあたるのはおそらくキリマンジャロ国立公園局の武装ワーデンでしょうが、昼夜を問わず広いエリアを少数のワーデンで監視するというのは、どう考えても無理があります。しかも相手は圧倒的な数でおまけに賢いですから、最初は怖がるかも知れませんが、すぐに彼らを避けて村に侵入し始めるでしょう。

 

結果が出ないとなれば、村人たちの窮状は変わらず、不満がさらにたまっていくように思えます。もし現状を変更しない(できない)のであれば、畑に電気柵を設置する、あるいは野生動物保護の結果地元住民が被る被害に対して適切な補償をすることが求められます。とはいえ、政府がそのようなことをするとはとても思えません。

 

結局のところ、村人たちは一方的に拡大された国立公園による問題をすべて押しつけられ、背負わされるだけということになります。では国立公園拡大によって何か地域や村人たちにメリットや恩恵があったかといえば、ゼロです。国立公園拡大はマイナスしかもたらしていません。

 

このまま村人たちの不満が鬱積していくと、いつか何か起きてしまうかも知れません。そう考えるととても怖い気がします。

 

もともとバッファゾーンの森は、緩衝帯としてその上部に広がる自然林に人々が入らなくて済むように、バッファゾーンの中で人々が日々の糧を得られるようにと設置されたものでした。自然と人々の暮らしの両立を図る知恵として存在していました。それは野生動物の村への侵入を防ぎ、生活の森の重要性を知るが故に山麓住民は誰に言われずとも森を大切に守ってきました。

 

自然と野生動物を守るという論理のもと、山麓住民を巻き込むことなく、一方的に実施された国立公園の拡大。それは様々な面で地域社会や人々の生活、生活基盤に破壊をもたらしました。なぜこうも強引で極端な方法を安直に採るのか、疑問でしかありません。

 

自然や野生動物を守り、さらに人々の生活を守っていくために、人々がバッファゾーンをさらに効果的に管理、利用していくための支援やインセンティブを与えていく方法を、政府は探り、実施すべきであったと当会は考えています。またその実現を目指した取り組みを、山麓村を結ぶ地位連合とともに取り組んでいます。

 

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タンザニア・ポレポレクラブはキリマンジャロ山で約25年にわたり「森林保全」「収入向上」「生活改善」を3本柱とした活動に取り組んでいます。

森林保全活動では、山麓住民と協力して森林再生のための植林に取り組んでいるほか、キリマンジャロ山における地域住民主導による持続的な森林保全・管理の実現を目指しています。本文中にもあるように現在そのための地域組織の強化や政府関係者との交渉、協議を進めています。

 

政府の政策変更は容易ではなく、長い時間をかけて理解を求めていく必要があります。また地域組織の育成や能力強化も、長期的視点をもってじっくり腰を据えて取り組んでいかなくてはなりません。

 

こうした取り組みは地味で成果もすぐには上がりませんが、問題解決のために必ず成し遂げなければならない取り組みです。

 

残念ながらこの取り組みを進めていくための資金調達に常に苦しんでいるのが現状です。

 

タンザニア・ポレポレクラブが、これからもキリマンジャロ山で地域住民主導による森林保全、管理の実現に取り組んでいくために、ぜひご寄付による支援を賜れますようお願い申し上げます。

 

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