写真: キリマンジャロ山とその森
タンザニアの隣国モザンビークでJICAが35億円のODAを使って進めてきた大規模農業開発プロジェクト「プロサバンナ事業」が中止されました。
地域住民の声を受け止めることなく、現地裁判所から違憲の判決が下されようとも、それらを顧みることなく進められてきたこの事業。中止は当然の判断なのですが、それでも本当によく止まったものと思います。プロサバンナ事業が開始されて8年、この事業の問題点を指摘し続け、声を上げ続けた方々の不屈の努力の結果だと心から敬意を表したいと思います。そして命の危険さえある中で反対の声を上げてきた現地農民の方々の恐怖はいかばかりであったかと想像します。
茂木外務大臣は会見で「中止ではありません、完了です」と言っていましたが、本当に落胆させられました。検証しないということでしょうか。巨額の国費を投入したにも関わらず、中止に追い込まれたODA事業のどこに問題があったのか、二度と同じ問題を他国や同じ国で繰り返さないためにも、事業の検証とその反省を今後に活かすべき貴重な機会ととらえるのがあるべき姿勢ではないでしょうか。
今回のプロサバンナ事業の中止に、あらためてキリマンジャロ山の森の問題を重ねてみていました。そしてその解決の困難さを、あらためてひしひしと感じていました。キリマンジャロ山の森を守るためとして山麓住民の生活の森(日本の里山にあたる)にまで広げられた国立公園。日本のODAは幸いにしてからんでいませんが、地域住民の声を無視し、声を上げる者が恐怖する事態となっていることはプロサバンナ事業と変わるところはありません。
しかしキリマンジャロ山の住民は孤立無援の状態に置かれています。プロサバンナ事業では様々な国の組織、人々が、そして日本のNGO、市民、国会議員が、この問題に立ち向かっていきました。それでさえ解決まで8年の年月を要しました(まだ手放しで喜べる状況とまではいかないようですが)。一方、キリマンジャロ山では世界遺産という魔物の前に、世界のどのNGOも声を上げません。山麓住民は孤立無援の中で苦しみ、声を上げることさえ難しくなっています。当会は国立公園が里山の森にまで拡大された2005年以来、山麓住民と力を合わせ、彼らの命と生活が守られるよう取り組んできました。しかし問題が起きてすでに15年。いったい解決まで何年かかるのか、そもそも解決できるのか、そんな思いがしました。
しかしプロサバンナ事業の中止は、諦めずに取り組み続けること、声を上げ続けることの大切さを示してくれたと思っています。キリマンジャロ山で起きている問題の解決にはあと10年かかるのかも知れません。さらにそのような長い年月、山麓住民が苦しみの中に置かれ続けるのかと考えると到底受け入れ難いことです。しかし諦めてしまえば解決の日は永遠に来ることはありません。どんなに時間がかかっても、回り道をしてでも、諦めずに取り組んでいく。そんな覚悟をさせられました。