「ここでは全員が家族」知的障がい者施設:ウクライナ現地報告

ロシアの軍事侵攻が続くウクライナでは、障がい者がとりわけ厳しい状況に置かれています。AAR Japan[難民を助ける会]は知的障がい者の親の会2団体、車いす利用者の1団体を支援しています。キーウ州内にある知的障がい者の親の会ジェレラ(Djerela)の活動施設を訪ねたAARモルドバ事務所の東マリ子が報告します。

 

「レスパイト・ケア」をサポート

「ここでは全員が家族です。私たちを受け入れてくれる場所は他にはありません」。首都キーウに本部があるジェレラがキーウ州内の静かな町ボフスラフで運営する活動施設で、おいの介護をしている女性は目を潤ませながら話しました。この施設を利用しているのは30~40代の知的障がい者。同国には障がい児の施設や寄宿校は多数ありますが、18歳の成人年齢に達すると受け入れ先が限られます。

 

ここでは「レスパイト・ケア」と呼ばれるプログラムがAARの資金援助で実施されています。レスパイト(Respite)とは「息抜き」「ひと休み」という意味です。障がい者の家族(その多くは母親)は、長期間あるいは一生を通して介護を続けなければなりません。レスパイト・ケアは介護者と障がい当事者が一時的に離れて過ごすことによって、介護者が自身の心と身体を労る時間を設ける手法です。また、障がい者自身も落ち着いた環境で仲間たちと過ごすことができます。

22年前に医師の紹介でジェレラにやってきたマリナさん(右)と母親

 

この活動施設では、1グループあたり8人前後の知的障がい者が10日間の共同生活を送っています。プログラムでは精神保健福祉士(精神科ソーシャルワーカー)と呼ばれる専門家が常駐し、障がい者の自立に向けてサポートしています。AARは支援事業の一環として、障がい者と家族を対象とした専門家によるオンラインセミナーを実施し、障がいの正しい理解や対応方法、福祉サービスなどについて伝えました。

 

自分で描いた絵を見せるメンバー

 

ひとり一人に寄り添って

施設にいる参加者の中には、一見すると知的障がい者に見えない人もいます。精神保健福祉士のタマラさんによると、「例えばダウン症のアーニャは、ここでの活動をプログラムへの参加を通じてコミュニケーションの取り方が上手になりました」「自閉症のボーバは強いこだわりがありますが、彼が興奮した時の対処法が分かっているので、彼を落ち着かせて共同生活を続けることができます」。

 

知的障がい者と一口に言っても、個性や特徴は十人十色。そんな彼らひとり一人に寄り添う献身的なサポートによって、障がいのあるメンバーは家族と離れていても安心して共同生活を送ることができています。そして、自立した生活能力や社会性を少しずつ身に着けている様子が感じられました。もうひとりの専門家、パウロさんは「この仕事を通して知的障がい者である彼らに関わることは私の生きがいです。面倒を見ているのではなく、私自身が彼らに癒されていると感じます」と話します。「全員が大きな家族」という意味を実感しました。

 

ジェレラの専門家パウロさん(左)とタマラさん(右)に話を聞く東

 

保護者の皆さんは一様に「年に一度でもいいのでレスパイト・ケアをしてほしい」と控えめに願っています。知的障がいのあるマリナさんの母親は「ジェレラと出会えた私たちは恵まれています。こうしたサポートを受けられないまま、社会から孤立している家族もいるのですから」と話しました。戦時下で障がい者に対する政府・行政の公的支援が滞る中、ジェレラのような団体の活動はますます重要になっています。

 

軍事侵攻が長期化するウクライナでは、多くの障がい者と家族が支援を待っています。AARのウクライナ人道支援へのご協力を重ねてお願い申し上げます。

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