地雷原で続く地道な除去作業:ウクライナ現地報告

ロシアの軍事侵攻が続くウクライナでは、地雷・不発弾の存在が深刻な問題になっています。AAR Japan[難民を助ける会]は2022年9月以降、長年にわたって協力関係にある英国の地雷除去専門NGOヘイロー・トラスト(THE HALO TRUST)を通じて、ウクライナの地雷除去をサポートしています。AAR東京事務局の紺野誠二が現地から報告します。

 

(地雷を起爆させるトリップワイヤーを探すヘイローの除去要員=首都キーウ近郊ザリーシャ村で2023年4月5日(紺野誠二撮影))

 

首都近郊の村に地雷原

首都キーウから北東に約30キロ、主要幹線道路沿いの村ザリーシャ。何の変哲もない小さな村で、地雷除去作業が行われていました。なぜ、ここに地雷原があるのか。それは侵攻初期、キーウ包囲を企図したロシア軍が陣地を設けていたためです。

 

ザリーシャ村は昨年3月8日にロシア軍に占拠され、4月1日にウクライナ軍が奪還しました。その後の5月8日、切断された電線の補修をしていた男性が対人地雷に触れて死亡する事故が発生し、ヘイローによる地雷除去活動が開始されました。

 

(ザリーシャ村の地雷原。すぐ向こうに幹線道路と住宅が見える)

 

地雷除去はとても地道な作業です。まず紛争地域の村々を訪問し、地元住民や軍関係者などから聞き取り調査を行って、地雷原の位置をある程度特定します。また、残念ながら実際に地雷による被害が発生すると、その辺りに地雷が確実にあることが分かります。もうひとつの重要な手掛かりは、紛争当事者(この場合はロシア軍)がどこに地雷を埋めたのかを記録した「地雷地図」です。ヘイローの担当者からロシア軍が残した「地図」を見せられた時は、軍事機密であるだけに、さすがに驚きました。こうした情報を基に、除去作業の準備として方眼紙に地雷が埋設された可能性がある場所の情報を記入し、どこで作業するのかを明確にします。

 

(地雷除去の現場で説明を聞くAARの紺野。黄色い棒が地雷のあった場所を示している。)

 

(聞き取り調査を基に作成された地雷除去作業予定地の地図)

 

ザリーシャ村の地雷原は幹線道路沿いの松林の中にあり、人々は地雷原と隣り合わせで暮らしています。松林の中にロシア軍の塹壕の跡があって、反撃を受けて慌てて撤退したらしく、運動靴など様々なものが散乱していました。

 

(様々なものが散乱したロシア軍の塹壕跡)

 

ここで確認されたのは、多くの人がイメージするような踏むと爆発するタイプの対人地雷ではありません。仕掛けられた糸(トリップワイヤー)に敵が引っかかると、設置された地雷が1メートル程度の高さに跳び上がって爆発します。これは非常に危険なロシア製の「OZM-72」という地雷です。夜間の反撃を恐れたロシア軍が、塹壕の周りにトリップワイヤーにつないだこの地雷を設置したものと思われます。

 

安心して暮らせる日を取り戻すために

ここで除去活動を開始したのは2022年7月ですが、8カ月以上経っても作業はほとんど進んでいません。この現場では金属探知機で探す通常の方法ではなく、木々の間や地表にトリップワイヤーがないかを探す作業を主に行っています。それはとてつもなく慎重さを要する作業です。作業は50分間やって10分間休憩の繰り返しで、まだ気温が低い現在は午前8時半に開始して午後3時半には終了します。しかし、この間に発見・除去された地雷は1個。そして、犠牲者を出したもう1個だけです。あと何個地雷があるのか、そもそもあるのかどうかも分かりません。とはいえ、ひたすら手作業よる地道な作業を続けるしかありません。

(地雷除去に取り組むヘイローの現地スタッフ)

 

こうした除去作業は、ほんのスタートに過ぎません。なぜなら2014年に始まった東部ドンバス地域の紛争で埋設された地雷が残されたまま、今般の軍事侵攻が始まってしまったからです。そして、今もなお戦闘は続いていますが、まずは戦闘が終結した地域から地雷除去を進めています。地雷による負の影響を解消するためには、膨大な労力と時間が必要ですが、地道な作業を続けていくしかありません。

 

とてもゆっくりしたペースですが、ウクライナの人々が安心して暮らせる日を取り戻すために、危険な除去作業は今日も続けられています。AAR Japanとヘイロー・トラストによる地雷除去事業へのご理解・ご支援をお願い申し上げます。
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