山麓住民の声を届ける

今年は世界で注目されるような選挙が続きますが、タンザニアも今年は地方選、来年は大統領選を含む総選挙が控えており、すでにザワザワした雰囲気が漂っています。

 

そんな中、つい先日、キリマンジャロ山の麓の町モシに与党CCM(革命党)の大物(イデオロギー・広報局書記長)がやって来ました。地方自治体の首長らに檄を飛ばし、地元住民の不満を吸い上げ、票に繋げようと全国を回っているのです。

 

大衆集会の会場には数千人の人々が集まり、この大物が何を言うかに耳を傾け、また彼らの訴えを聞いてもらおうと手を挙げ、声を上げ、必死にアピールします。

 

 

写真:集会に集まった人々

 

キリマンジャロ山では山麓住民の同意なく、彼らの生活を支えてきた森(日本の里山の森に相当)が国立公園に取り込まれてすでに20年近くが経ちます。その背景には、世界遺産の山の自然を守れという、タンザニア政府はもちろんのこと、国際機関や自然保護家からの圧力があります。しかしそこには、山で長く暮らしてきた人々への配慮は見られません。自然を守ることは大切ですが、そのために人々の生活の権利が奪われるようなことがあってはなりません。ましてや彼らを排除するために武器や暴力が用いられ、恐怖による圧力がかけられていることが許されて良いはずもありません。

 

生活のための資源を得られなくなった住民たちは困窮し、森を戻して貰えるようずっと政府に訴えてきました。しかし彼らの声はまったく顧みられることはありませんでした。

 

当会はそうした住民たちに協力し、この森の問題を解決しようと取り組んでいます。これまでバラバラだった森林に沿う村々をまとめ組織化し、共同歩調がとれるようにするとともに、県、州、中央省庁といった関係機関への問題提起、交渉などを行ってきました。しかし残念ながらまだ思うような成果に結びつけることができずにいます。

 

そんな中、選挙は状況を変える一つのタイミングでもあります。市民の声を聞かなければ、政権の座を追われないまでも、地方レベルでは議席を失う可能性は高いと言えます。だからこそイデオロギー・広報局書記長も全国を回っていると言えます。

 

この機会を捉え、わたしたちは山麓住民の声を届けるべく動くことにしました。森の問題を訴える横断幕を用意し、大統領への訴えとして会場で掲げました。他にも看板などを掲げる人たちもいましたが、この横断幕はかなり大きなもので、会場でも相当に目立っていました。

 

 

写真: 会場に掲げられた森の問題を訴える横断幕。サミア大統領への訴えとして同大統領の写真も使っている

 

これが書記長の目にとまり、住民たちは直接指名をうけ、書記長に森の問題を訴えました。時間はすでに午後6時を回り、あたりは薄暗くなっていましたが、書記長は「土地問題を担当している州の部局長は今から直ちに彼らを事務所に迎え入れ、話し合いに入るように」と命じました。当日はあまり時間もなかったため、協議の場をあらためて持つことで合意しましたが、問題を動かす一石を投じることになったといえます。

 

すぐに大きく動くことはないかも知れませんが、書記長の命令は重く、県や州も何らかの対応を迫られることになるでしょう。その結果を見て、私たちはさらに住民たちの声を上に、できれば大統領の耳に直接入れる道を探ることにしています。