写真: キリマンジャロ山の森に沿った村々のリーダーを集めた会議の模様
キリマンジャロ山で山麓住民が利用してきた森“ハーフマイル・フォレスト・ストリップ(HMFS)”。HMFSは原生林と村落エリアの間に、まさにバッファゾーン(緩衝帯)の森として巨大な山のほぼ半周をぐるりと取り巻いていました。
2005年にそのHMFSまで国立公園が拡大されると、山麓住民の生活は窮地に追い込まれてしまいました。彼らにとってHMFSは生活体系に組み込まれた森であり、日本でいう里山に近い機能を果たしてきたからです。
森(HMFS)は煮炊きのための薪を供給していただけでなく、家畜の餌となる枝葉の採集場所でもありました。キリマンジャロ山にある村々では、そこに暮らすチャガの人々が“キハンバ”と呼ぶ農畜林混合の持続的農耕システム(2011年、世界農業遺産に指定)が営まれていました。しかし家畜の餌の供給源が絶たれたことで、このシステムは十全な機能を果たせなくなっています。
それだけではありません。キハンバは「農」「畜」「林(キハンバ内に地力維持等のため意図的に樹木を残した)」に、さらに森林に源を発する「伝統水路」“Mfongo”を組み込んだ優れたシステムでしたが、HMFSが国立公園に取り込まれた結果、この伝統水路の維持も容易でなくなってしまいました。
水路はかつて村人たちの最大の収入源であったキリマンジャロコーヒーの栽培に影響を与えただけでなく、作物栽培の通年化を支える重要な機能を果たしてきましたが、それが困難となりました。
HMFSを国立公園に取り込むという政策は、このように人々の生活に多大な影響を及ぼしていますが、そればかりかこれまで森林保全や森林破壊の監視に重要な役割を果たしてきた山麓住民から、その役割や果たしてきた機能をも奪ってしまいました。
国立公園となった後での旧HMFSには武装したワーデンが配置され、「銃と脅しによる森林保護」が行われていますが、その銃口や脅しが向けられた先が山麓住民というのでは穏やかではありません。山麓住民には「森林の破壊者」というレッテルが貼られたからです。
木を切る村人が皆無であったとは言いませんが、キリマンジャロ山の森林劣化を招いた根本原因は、それまでに政府によって実施された一貫性を欠き、かつ相互に矛盾した森林政策にあったと考えています。
キリマンジャロ山において山麓住民が森林保全に効果的に取り組み、大きな力を発揮してきたことは事実として知られており、彼らを排除することで森を守る(=国立公園への編入)という政策には妥当性がないだけでなく、公正さを欠いています。
キリマンジャロ山で起きているこの問題を解決するためには、政府が山麓住民や地域が森林保全に発揮してきた能力を正当に評価したうえで、彼らによる森林の保全・管理を積極的にサポートしていくこと、さらには山麓住民が生活を維持できるよう、適切かつ持続的な方法での森(森林資源)の利用を認めていくことでしょう。そのためには、HMFSを国立公園とした現在の法律や政策は切り替えられなければなりません。
当会はキリマンジャロ山麓の村々と力を合わせ、キリマンジャロ山でこうした政策や法改正が実現されるよう、政府および関係機関への働きかけおよび協議を進めています。また村を含む山麓地域内での連携の推進、能力強化そして住民主導による森林保全・管理の仕組みづくりに取り組んでいます。