知床ネイチャーキャンパス・ネクストを開催しました

公益財団法人知床自然大学院大学設立財団は、2021年3月13〜14日に、野生生物との共存を学ぶ教育プログラム「知床ネイチャーキャンパス・ネクスト」を、オンラインで開催しました。2020年度は新型コロナウイルス感染症の全国的な流行のため、知床に集合する現地実習や演習のプログラム開催が困難となり、オンラインによる講義とディスカッションに絞って開催しました。

オンライン講義の様子

 

テーマ生物多様性を守るために』-科学的保護管理を考える-

第1部 絶滅危惧種の保護=人に影響される生息環境=

日 時:2021313日(土)

    13:30〜17:00

第2部 科学的保護管理とは=世界遺産地域から全国へ=

日 時:2021314日(日)

    13:00〜17:20

 

方 法:Zoomによるオンライン講義とディスカッション

受講生:27

北海道内外の大学で生物学や森林科学、環境科学、地域システム学などを専攻する学生・大学院生24名と環境系の業務に携わる社会人や教員など4名、合計27名が参加。受講対象は過去の知床ネイチャーキャンパス受講者としましたが、新規希望も多く、定員を増やしての開催となりました。

講師紹介(敬称略)

齊藤 慶輔 

猛禽類医学研究所代表・獣医師 環境省オジロワシ・オオワシ保護増殖検討会委員

著書:「猛禽類学(共訳)」(文永堂出版)、「野生の猛禽を診る」(北海道新聞社)など

早矢仕 有子

北海学園大学工学部教授 環境省シマフクロウ保護増殖検討会委員

著書:「野生動物の餌付け問題」(共著・地人書館)「世界のフクロウ全種図鑑」(監修・エクスナレッジ)など

 光一

東京農工大学名誉教授・兵庫県森林動物研究センター所長 知床世界自然遺産科学委員会委員

著書:「野生動物の管理システム」(編著・講談社)「日本のシカ」(編著・東京大学出版会)など

中村 太士

北海道大学大学院農学研究院教授 知床世界自然遺産科学委員会委員 河川工作物AP座長

著書:「流域一貫」(築地書館)「河川生態学」(編著・講談社)など

敷田 麻実

北陸先端科学技術大学院大学教授 知床世界遺産科学委員会委員 適正利用・エコツーリズムWG座長

著書:「地域資源を守って生かすエコツーリズム」(編著・講談社)「生物文化多様性」(編著・講談社)

鈴木 正嗣

岐阜大学応用生物科学部教授 「野生生物と社会」学会会長

著書:「野生動物と社会」(監訳・文永堂出版)「野生動物管理-理論と技術-」(編著・文永堂出版)など

中川 元

知床自然大学院大学設立財団業務執行理事 環境省オジロワシ・オオワシ保護増殖検討会委員

著書:「世界遺産知床がわかる本」(岩波書店)「オホーツクの生態系とその保全」(共著・北海道大学出版会)など


講義プログラム
プログラム

 

 

第1部 絶滅危惧種の保護=人に影響される生息環境=

講義1 絶滅危惧種の保護制度・保全活動の概要 (中川 元 理事)

絶滅危惧種の定義に始まり、種の保存法やレッドリストなど、絶滅危惧種に関する法律や制度について解説しました。現在行われているシマフクロウやオオワシ、オジロワシの保護増殖事業についても解説し、プログラム冒頭に、今後の講義を聞く上で大切な基礎知識を学びました。

講義2 オジロワシ・オオワシ保護の現状と課題 (齊藤 慶輔 先生)

猛禽類医学研究所代表・獣医師として、長年希少猛禽類の保護に従事する経験から、保護の現状と課題のほか、保護活動に向き合う大切な考え方について解説いだきました。交通事故や列車事故、感電死などを防ぐために、多くの機関と協力関係を築く取り組み事例などをお話しいただきました。

講義3 シマフクロウ保護の現状と課題 (早矢仕 有子 先生)

道内でも限られた場所でしか生息できないシマフクロウ保護の歴史や現状、人との関わり方を中心とした問題点などを解説いただきました。営巣地の侵入防止や生態を広く知ってもらうための、Webによる新たな取り組みもご紹介いただき、たくさんの質疑応答がなされました。


2部 科学的保護管理とは=世界遺産地域から全国へ=

講義4 増えすぎた動物の個体群管理 (梶 光一 先生)

40年にわたる洞爺湖中島や知床岬での研究から、エゾシカの爆発的増加や崩壊、対策としての個体数管理の現状について解説。自然調節プロセスだけではシカによる森林植生への影響を緩和できないことなど、科学的データに基づいた長年の研究成果をお話しいただきました。

講義5 生物多様性を守る河川管理 (中村 太士 先生)

自然のリズムを崩さないことや順応的管理が重要となる河川管理の考え方のほか、サケ科魚類の遡上を妨げていた知床の河川工作物の改良事例を紹介いただきました。カラフトマスやサクラマスの産卵状況の変化など、世界自然遺産登録後の改良による成果を解説いただきました。

講義6 利用と保護のマネジメント (敷田 麻実 先生)

世界自然遺産知床の管理体制、知床エコツーリズム戦略を例に、マネジメントとは何か、コントロールとは違うマネジメントの目的や手法などを噛み砕いて説明していただきました。マネジメント=「矛盾する要素の調整」の下に、適切な利用と保護が存在する仕組みを解説していただきました。

講義7 野生動物保護管理システムと必要な人材 (鈴木 正嗣 先生)

現在内容が検討されている「野生動物管理学コアカリキュラム」についてや、育てるべき人材の明確化、教育体制の構築、出口(就職先)の確保など、この分野の教育に必要な各種課題を解説いただきました。受講生の興味関心が高く、必要な能力についてなど活発な質疑がなされました。

※両日とも、講義の後に、各講師と受講生による質疑とディスカッションを実施しています。