被災地の日常を取り戻す日まで:能登半島地震3カ月

1月1日の能登半島地震の発生から3カ月が経ちます。災害関連死を含めて244人が犠牲になった被災地では、仮設住宅の建設が急ピッチで進むなど復興に向けた懸命の努力が続く一方で、今なお避難所で8,000人以上、自宅などで約1万3,000人が避難生活を余儀なくされています。AAR Japan[難民を助ける会]は地震発生直後に石川県内で緊急支援を開始し、その後も被災者の皆さんに寄り添う活動を続けています。

 

「3カ月を経て緊急期から復興期に移行しつつある今、炊き出しや物資配付を中心とした支援から、全半壊した住まいをどうするかといった生活再建へと支援課題も変化しています。しかし、未だに避難所での生活や在宅避難を続ける被災者もいて、炊き出しなどのニーズもなくなったわけではありません」。震災発生直後から現場で支援活動を続けるAAR東京事務局の生田目充は指摘します。

 

AARがこの3カ月間に実施した支援活動と今後の取り組みは次の通りです。

 

■炊き出し

 

AARは震災発生2日後の1月3日、パートナー団体の認定NPO法人ピースプロジェクト(代表:加藤勉AAR理事)と協力して避難所での炊き出しを開始しました。その後も他団体や被災者自身の有志グループと連携し、3カ月間にのべ11万食以上の温かい食事をお届けしました。

 

地元の郷土料理「とり野菜みそ」を取り入れるなど、栄養バランスや美味しさにも気を配ったバラエティ豊かなメニューは、「寒さの中で温かい食事はありがたい」「避難所でこんな料理を食べられるとは思わなかった」とたいへん好評です。避難所だけでなく、台所が使えない状態で在宅避難を続ける在宅避難者、復興に携わる関係者など炊き出しを必要とする方々がいる限り、AARは他団体と連携して支援を続ける予定です。

 

■物資配付

 

交通インフラが壊滅的な被害を受けた能登地方には、いわゆる「孤立集落」など、市街地から離れた山間部に緊急支援が届きにくい地域が散在しました。AARは一時孤立していた輪島市町野町の小規模な避難所に早い時期にアクセスし、食料や飲料水、衛生用品などをお届けしました。こうした集落の住民はほとんどが高齢者で、必要な物資やサービスを丁寧に聞き取って避難生活をサポートしています。

 

この震災では上下水道の損壊による断水が大きな課題となり、AARは企業からご提供いただいた非常用の携帯トイレ、水の要らないシャンプーや歯磨きセット、体拭きウェットシートなどを障がい福祉施設や高齢者施設、避難所にお届けしました。受け取った皆さんからは「こういうものが欲しかった!」「介護にとても役立って助かります」といった声が多数寄せられ、たいへん好評でした。物資提供を含めて、被災者支援にご協力いただいた企業・団体をこちらのページでご紹介しています。

多くの企業・団体からのご協力に御礼申し上げます:能登半島地震緊急支援

 

■障がい福祉施設支援

 

大規模な災害に際しては、平時から弱い立場にある障がい者、高齢者などが特に困難な状況に置かれる傾向にあります。AARはこうした被災者への支援を常に重視しており、緊急支援チームが石川県内の福祉施設を優先的に回ってニーズを聞き取り、食料や飲料水、衛生用品、必要な備品などを届けてきました。

 

被災地の障がい者を支える福祉施設スタッフは、自らも被災者であり、自分たち家族の生活再建と施設の維持・再建の両方に対応しなければならず、その苦労は並大抵のものではありません。震災直後に他所に一時避難したものの、避難先から戻って来た施設利用者や家族から「施設を早く再開してほしい」との切実な声が相次いでいるといい、AARはいくつかの福祉施設で損壊した建物や設備の修繕計画を進めています。

 

■コミュニティ支援

 

避難所や在宅で避難生活を送る被災者の皆さんのニーズに合った支援として、理学療法士など専門家による出張マッサージ、トラックを改装した「移動式お風呂」サービス、弁護士が生活再建に向けた支援制度を分かりやすく解説する講座・相談会の開催、使われなくなった井戸の再利用のための電動ポンプ設置などを行っています。移動式お風呂を利用した70代女性は「震災から2カ月間まともにお風呂に入れなかった」と1時間半ほどかけて入浴を楽しんでいました。弁護士による講座・相談会には毎回多数の参加者があることから、生活再建の取り組みが本格化する中、AARは引き続き各地での開催を準備しています。

 

■外国人被災者支援

 

能登半島の被災地では漁業の技能実習生など外国人居住者も被災しています。言葉の問題もあって避難所になじめなかったり、行政の支援情報にアクセスするのが難しかったり、緊急期の支援が届きにくい状況にありました。AARは地元の支援団体と連携し、孤立しがちな外国人に食料や飲料水、衛生用品、暖房用燃料などを提供。「食材の買い出しができず、水道も使えず飲み水にも困っている」という能登町のインドネシア人の技能実習生たちに必要な物資を届けたほか、インドネシア製のインスタントめんや調味料、コーヒーなどを差し入れてたいへん喜ばれました。

 

生活再建支援が課題に

被災地では震災後、能登の人々は忍耐強く務めて前向きな姿勢、そして互いに助け合う地域の結束力で困難を乗り越えてきました。しかし、緊急期を過ぎて生活再建という現実が重くのしかかる中、「仮設住宅に当選しなかったらどうすればいいのか」「路線バスの本数が減って移動もできない」「将来への不安で夜もよく眠れない」といった悩みの声が逆に増えてきています。時間の経過とともに報道も減り、ともすれば関心が薄れつつありますが、被災地の厳しい状況は変わっていません。

 

生田目は「最も大変だった時期が過ぎて、今後を見据えた生活再建へとフェーズが変わっても、取り残されやすいのは、やはり障がい者や高齢者、外国人被災者といった人たちです。最も弱い立場に置かれた人々への支援を大切にするAARとして、地元の団体や行政との連携を深めながら、こうした被災者への支援を地道に続けていく必要があると考えます」と話します。

 

被災地の復興には長い時間と膨大な労力が求められるのは言うまでもありません。AARは緊急支援に留まらず、日常生活を取り戻そうと奮闘する被災者の皆さんに寄り添い、徐々に変化するニーズを的確にとらえながら、中長期的な支援に取り組んでまいります。引き続き、AARの能登半島地震支援へのご協力をよろしくお願い申し上げます。