パキスタン洪水2カ月 厳しい生活が続く被災地

パキスタンで大規模な洪水が発生して2カ月、AAR Japan[難民を助ける会]は被災者への支援活動を続けています。被災地は今どうなっているのか、イスラマバード事務所の大泉泰が報告します。

AARは8月末から同国北西部ハイバルパフトゥンハー州ノウシェラ郡の被災地で、支援活動を実施しています。これまでに被災した障がい者、アフガニスタン難民など約480世帯に食料や衛生用品を届けたほか、井戸が使えなくなった2つの地区で、給水車による配水を毎日続けています。


AARが手配した給水車から水を汲む被災地の住民

同郡では浸水地域の水は完全に引いて、被害を受けた農地で小麦の作付けが始まり、商店や学校も再開しています。一方で、通常の生活に戻れない人たちがたくさんいます。今回の洪水が以前から続いていたインフレに拍車をかけており、商店に並ぶ野菜や穀物の価格は、昨年の2倍~8倍にも上ります。特にカレーの材料になるトマトや玉ねぎなど、人々がよく使う食料ほど高くなっています。もともと貧しかった被災者は、家屋が損壊したり失業したりして、必要な食料を買うことができません。


被災地で営業を再開した商店(2022年10月24日撮影)

今もテント暮らし、感染症が蔓延

アフガニスタン難民居住地の人たちは、とりわけ厳しい状況にあります。家屋が流されて、未だにテント暮らしを余儀なくされ、屋根のある家に戻れるめどは全く立っていません。電気は小さな太陽光パネルで発電し、かろうじて電球や扇風機を使える程度です。井戸も破壊されたため、AARの給水車による配水支援が命綱になっています。


学校に通う被災地の児童(2022年10月27日撮影)

難民居住地には被災直後、国連機関が簡易トイレを整備しましたが、被災者同士の利用ルールの設定やメンテナンスがうまくいかず、ほとんどが壊れてしまいました。女性や子ども含めて、多くの人が野外で用を足さざるを得ず、感染病が蔓延しています。

夫と避難生活を送るタジ・ビビさん(55歳)は「被災後すぐに近くに住む孫がコレラにかかり、本当に心配でした。他の家族も発熱、デング熱、下痢、皮膚病などを発症しています。よほど症状が重ければ公立病院で診察を受けますが、ほとんどはテントで寝たまま回復するのを待つしかありません」と疲れ果てた表情で話します。


タジ・ビビさん(左)に聞き取りを行うAARイスラマバード事務所職員のシーマ・ファルーク(2022年10月24日撮影)

圧倒的に足りない被災者支援

国連機関の分析によると、2カ月経った現在もパキスタン全土で550万人が安全な水を得られず、700万人の子どもが栄養不足状態にあるほか、400万人の子どもが診療を必要としています。南部シンド州を中心に、10月11日時点で3万7,000平方キロメートルが浸水したままで、浸水による直接的な被害を受けている人口は1,300万人に上ります。

AARが活動するノウシェラ郡でも、被災者のニーズに対して、支援が圧倒的に不足した状況です。食料や日用品、家具・寝具、衛生用品などの物資だけでなく、家屋の修理・再建、農地や家畜の回復、教育施設や井戸の補修など、必要な支援がたくさんあります。


アフガニスタン難民居住地のテント外にある煮炊きスペース(2022年10月24日撮影)

AARは冬の到来を前に、障がい者やアフガニスタン難民の世帯に対して、3カ月分の食料と寝具(マットレス、毛布など)を近く配付する予定です。併せて、共用井戸とトイレを整備します。引き続き、皆さまのご協力をよろしくお願い申し上げます。
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報告:大泉 泰 
民間企業で勤務後、2017年にAARに入職し、パキスタン・イスラマバード事務所に駐在。

 

難民を助ける会(AAR Japan)

作成日時: 2022/11/01 08:59

寄付プロジェクト: 【パキスタン洪水 緊急支援】