「孫が増えたと思って」:ウクライナの親子を受け入れるミハイルさん

モルドバに暮らすミハイルさんは、ウクライナから逃れてきた人々を自宅に受け入れています。避難してきた人々の状況や、どのような思いで受け入れているのか、お話を伺いました。AAR Japan[難民を助ける会]緊急支援チームの本間啓大がモルドバから報告します。

ミハイルさんはモルドバ在住のウクライナ人です。30年ほど前にモルドバに移住し、両国の文化交流に強い思い入れがあります。モルドバ国内でウクライナの文化を推進する活動に携わり、現在は協会の代表を務めています。そうした活動のつながりから、奥さんと二人で暮らす自宅にウクライナ難民を受け入れるようになりました。

どのような人々を受け入れているのでしょうか。
ウクライナ男性の出国が制限されているので、母親と子どもだけという親子が多く、すでに何組もの親子を受け入れてきました。家には3部屋あり、2部屋を1世帯ずつに貸しています。妻と二人では広すぎるくらいだったので、窮屈で困っているということはありません。

最初に受け入れた親子を、待ち合わせ場所まで迎えに行った時のことです。母親も子どもも疲れ果てている様子でした。私の妻は、母親のことを黙って抱きしめました。それで母親も、少しはほっとしたように見えました。

私たちは特別なことをしているわけではなくて、ただ、休める場所だったり、温かい食事だったり、必要としているものを提供しているだけです。私は、孫が増えたんだと思って受け入れています。


ミハイルさんに話を聞くAARの本間

どのくらい滞在されるのですか。
多くは、次の移住先が見つかるまでの数日から1週間ほどです。同じようにウクライナ人を受け入れている友人の話を聞いても、とりあえずモルドバに避難して、他のヨーロッパの国へ移動するまでの間だけ滞在するというケースが多いようです。

移住先が見つからなかった親子には、ドイツに住んでいる私の息子の家族を紹介しました。息子も歓迎してくれて、向こうでうまくやっているようです。一緒に撮った写真をよく送ってきてくれます。

一方で、2週間ちかく家に滞在している親子もいます。父親がウクライナに残っていて、侵攻が終結したらすぐにウクライナに戻れるようモルドバにとどまっています。すぐに終わると考えているのだと思います。しかし、それがいつになるのかは誰にも分かりません。一番きついのは、こういう状況にある親子ではないでしょうか。他に行き場所がなく、戦闘が終わるのを待つだけで、自分たちではどうすることもできない。精神的に厳しい状況だと思います。

きょうだいがいない子どもも本当に気の毒だと思っています。友だちと離ればなれになって、一緒に遊ぶ相手がいない。自分の経験を共有できる相手が母親しかいない。


携帯電話で写真を見せながら話すミハイルさん

ウクライナの人々を受け入れるうえで大変なことはありますか?
大変なことはありません。言葉も通じますしね。ただ、政府からの補助がないので、食事を作ったり日用品を買ってあげたりなど、金銭的な負担はあります。しかし、それも大した問題ではありません。

大変というよりも私自身が気を付けていることですが、どんな経験をしたのかこちらからは聞かないようにしています。戦争についてもこちらからは話題にしません。テレビでも新聞でも、侵攻に関する情報はこちらからは見せないようにしています。特に、死者数については絶対に話題にしません。もちろん、見たいようだったらお見せしています。


自宅に伺った際には奥さまとともに民族衣装で歓迎してくれた

私たちのような支援団体がモルドバに集まっていることについてどう思いますか。
本当にありがたいことです。ウクライナの人々に支援を届けるために、こうして世界中から大勢の人々が来てくれていることに感謝しています。

ただ、私が望む一番の支援は、侵攻の終結です。世界中の人々が協力して、争いを終わらせてくれることを願っています。ロシア軍は一瞬にしてウクライナの都市を壊してしまいました。その復興にどれくらいの年月がかかると思いますか。一刻も早く侵攻が終結し、これ以上の被害が出ないことを願っています。

表情や声色からも優しさがにじみ出ているミハイルさん。穏やかな口調で淡々と話してくれるなか、侵攻を非難する時には「強い」言葉を使っていることが印象的でした。

ウクライナから逃れた難民の数は400万人を超え、多くはヨーロッパ諸国の一般市民によって受け入れられています。その一人ひとりの生活が、ミハイルさんのような人々の善意によって支えられています。

受け入れが長期化するにつれ、負担も増していきます。特にヨーロッパの最貧国と呼ばれるモルドバでは、政府にとっても一般市民にとっても、経済的に大きな影響が生じています。ウクライナの人々を支え続けるためにも、モルドバの人々の支えともなる支援活動を続けてまいります。

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