
ンゴロンゴロ自然保護区のクレーター内に集まった観光客のサファリカー
最近、世界遺産ンゴロンゴロ自然保護区からのマサイ民族の立ち退き問題について、あまりニュースで聞かなくなりました。そう思っていたら、昨日(8月8日)久しぶりに人権活動家らからなる国際的コミュニティGlobalVoicesから、「誰のための自然保護、誰のための開発か?タンザニア北部におけるマサイ民族の土地をめぐる闘争」という記事が出されました(※)。
※Global Voices:
“Whose conservation, whose development? The Maasai struggle over land in northern Tanzania”
https://globalvoices.org/2026/08/07/whose-conservation-whose-development-the-maasai-struggle-over-land-in-northern-tanzania/
世界遺産キリマンジャロ山でも、自然保護が優先され国立公園が拡大された結果、山麓住民が同じような問題に直面しています。
記事で述べられている、コミュニティの人々は同意なしに追い出され、自然保護は観光、狩猟、投資のために土地を奪うための道具となっている、という主張にはまったく同意できるところです。まるでキリマンジャロ山で起きていることを書いているのかと思ってしまうほどです。
自然・野生動物保護だけが優先され、そこに長く生き、暮らしてきた人々の存在が顧みられない時、両者は鋭く対立することになり、必ずコンフリクトが発生します。そしてその衝突はえてして武力、暴力等の実力行使や脅迫、圧力による強制排除によって目的の達成が図られようとします。つまり人権・生活権の侵害といった問題となって現れます。
このようなことは決して行われてはならず、そして許されるべきではありません。だからこそ問題とされています。
しかしこの記事では、この問題をさらに広い視点から俯瞰し、またそれがなかなか気づきにくい部分で何を破壊してしまうのかまで掘り下げています。その主張は、まさにこれまで当会が主張してきたことと完全に重なるものです。それは、
・土地保全をめぐる争いは、単なる環境紛争にとどまるものではない。それは、平和、正義、アイデンティティ、そして生存に関わる問題である
・土地は単なる経済資源ではない。それはアイデンティティ、精神性、記憶、そして社会の再生産と深く結びついており、聖地、放牧地、薬草地、そして先祖伝来の土地から人々を遠ざけることは、文化とコミュニティの結束を弱めることになる
そして
・地域社会が自分たちの声を聞いてもらえず、犯罪者扱いされ、先祖伝来の土地から引き離されていると感じる場所では、平和は築けない
というものです。
キリマンジャロ山中の村からのぞむキリマンジャロ山頂
自然や野生動物を守ることが大切であることは論を待ちません。しかしそれは、そこに長く暮らしてきた人々を顧みなくても良いことを意味しません。自然や野生動物も守るが、そこに暮らしてきた人々も守る。そうした立ち位置に立った自然・野生動物保護の在り方が求められます。記事でも、「タンザニアの野生生物と景観は世界的に重要であり、それらを保護することは国内外において正当な懸念事項のようである。しかしより根本的な問題は、自然保護をどのように行うかということだ。」と結論しており、その主張に深く共感します。
キリマンジャロ山に暮らしてきた村人たちは、森を利用するだけではなく、その破壊は彼ら自身の生活の破壊につながることをよく理解していました。だからこそ利用するだけでなく、誰よりも守ってきました。彼らは森林の破壊者などではなく、森の守護者として存在してきました。そうであるなら、彼らの持つ森林保全・管理の経験、知識に学び、協力していく、さらに踏み込むならば、彼らの能力を信頼し森林保全・管理を付託し、協力にサポートしていくといった政策への転換こそが必要なのではないでしょうか。
「地域住民レベルによる自主・自発的、持続的な環境保全活動を実現すること」、「人々が平和に安心して暮らしていける社会を実現すること」、「森林の保全・保護に果たしうる地域住民の高い管理能力、行動力を評価し、住民主導による森林保全・管理を担保する政策の導入を目指すこと」は、当会設立以来の活動の理念であり目標となっています(※)
※当会「組織目的/事業内容」: https://polepoleclub.jp/about/objective/
「タンザニア事業概要」: https://polepoleclub.jp/activity/tanzania/
最後に少し話は変わってしまいますが、世界遺産ンゴロンゴロでのマサイの立ち退き問題は、今のように彼らを見ず知らずの遠方の土地に退去させる(政府は「自由意思による移住」としている)のではなく、彼らがもともと暮らしていた土地であり、その後ンゴロンゴロへの移住を強制された世界遺産セレンゲティに戻してあげれば良いように思います。ンゴロンゴロではマサイの人口が増えたという問題はあるのかもしれませんが、そうであるなら、日本の四国ほどの面積がありながら野生動物が優先され、一人残らずマサイが退去させられたセレンゲティに戻してあげれば良いのではないでしょうか。マサイの誰も反対しないでしょう。
人の手で生み出された「野生の王国」や、もともとそこに暮らしていた人々の犠牲の上に成り立つサファリ観光なども、ぜひ見直して欲しいものです。