児童養護施設でのアーティスト・ワークショップ

 

 当NPOの活動は、小中学校など教育現場が主となっていますが、2011年からは都内の児童養護施設、2016年からは障害児入所施設へと、児童福祉の現場にもアーティスト・ワークショップを届けています。

 

 2018年度は、寄付や様々な支援を活用して、児童養護施設4施設と、障害児入所施設1施設で32日間のワークショップを実施、年少児~高校3年生まで65人の子どもたちが参加しました。アーティストは、振付家・ダンサー、舞台音楽家、俳優など、1施設につき23人、計10人を派遣しました。

 

 

  ある施設では、小学生1年生から高校3年生の14人の子どもたちと、201811月~20193月の期間に、8日間のワークショップを行いました。アーティストは、舞台音楽家として活躍する棚川寛子さん。アシスタントとして、2名の俳優も参加しました。

 

まずは、事前に施設の自立支援コーディネーター、アーティスト、事務局スタッフでの打合せを設けて、内容を検討しました。職員の方々の、音楽やダンスを織り交ぜて、子どもたち一人ひとりの良さが活かされるような演劇的活動をしたいという要望を受け、最終日には施設内で発表会もすることになりました。また、毎回のワークショップに職員の方も参加してもらい、各回終了後には、子どもたちの近況やその日のワークショップ中の様子について振返り、子どもたちが常に安心して楽しくワークショップに参加できるよう、内容を調整しながら進めていきました。

 

参加した子どもたちは、年齢の幅も広く、ダンスが好きな子や、物づくりが好きな子、音楽に興味がある子など、個々の興味関心や得意なことも様々でした。アーティストは、それぞれの子どもたちに寄り添い、何をつくりたいか、何をしたいか、いつも子どもたちと相談しながら場をつくっていきました。絵本の読み聞かせや台詞を考えるカードゲームなども経験したのち、発表会で演じる物語をオリジナルでつくっていくことになりました。

そうして、子どもたちとアーティストが一緒に考えたオリジナルの物語『女王様の音楽会』は、音楽に苦手意識のある中学生が森に迷い込み、道中いろんな動物に出会って、最後には女王様の音楽会で指揮を担うことになり、動物たちと歌ったり踊ったりするというもの。物語の流れに沿って、みんなで歌詞を考えて歌をつくったり、舞台美術や衣裳をつくったりして、様々な表現を楽しむワークショップとなりました。台詞の言い方の工夫や、どんな楽器を演奏したいか、何の曲でどんなダンスを踊りたいかなど、子どもたちの希望を取り入れながら創意工夫を重ねて、最終回には、施設内の幼児、児童や職員を招いて発表しました。

 

大勢の観客に拍手をもらい、自分の表現が認められたことは、「自分が自分であっていい」という自信につながり、みんなで舞台をつくり上げた8日間の経験は、人と関わる力の育成にもつながったと言えます。職員の方の実施後アンケートでは、「主体的に参加する子が増えて、自己主張ができるようになっている。子どもたちの成長を(アーティストやスタッフと)共有できることで、子どもが自分の成長を実感できる」という効果が挙げられました。各回の振返りでも、「引っ込み思案で前に出るのが苦手な子も、(ワークショップの場が)居場所になっていた」との感想がありました。普段の生活集団とは少し違ったメンバーと、安心できる環境で表現活動に取り組むことで、他の子を助けたり、一緒に相談して課題を乗り越えたりするなど、子どもたちの新しい一面や可能性が引き出される場ともなりました。

 

 皆様からのご支援を支えに、表現することや人と関わり合うことの楽しさを体験できる場をいろいろな施設へ届け、社会的養護の下にある子どもたちの自立支援に寄与できるよう、今後も実践を積み重ねていきたいと思います。