【当事者インタビュー】「ブリッジフォースマイルは、私の“駆け込み寺”」ゆりあ

 

ブリッジフォースマイル(B4S) では、若者が気軽に立ち寄れる「居場所」を全国各地で運営しています。そこには、さまざまな理由で親を頼れない若者がやってきて、たわいのないおしゃべりを楽しんだり、悩みを相談したり、同じような境遇の仲間と交流したり、のんびり一休みをしたりと、思い思いの過ごし方をしています。現在大学4年生の「ゆりあ」も、そんな若者の一人です。「B4Sは私にとって『駆け込み寺』みたいな存在」というゆりあに、B4Sとの出会いや居場所の価値について聞きました。

 

 

■B4Sとの出会い

 

ゆりあは現在21歳。東京都内の福祉系の大学に通っています。2022年3月までは児童養護施設で生活しており、高校卒業を機に施設を出て一人暮らしを始めました。そして昨年の2024年からは「B4S PORT あきば 」や「B4S PORT しもきた 」など都内にあるB4Sの居場所を利用するようになりました。

 

B4Sとの出会いは、施設で生活していた頃にさかのぼります。

「中学3年生のとき、私たちが会場に行って、B4Sのスタッフさんが行うセミナーに出たことがあります。自己紹介の仕方などを学んだように記憶しています」

ゆりあは、複数の児童養護施設や里親家庭の子どもたちを集めて、ワーク形式でキャリアやコミュニケーションなどを学ぶ「集合型セミナー 」に参加していたようです。

 

しかし、今につながる関わりが生まれたのは、児童養護施設からの巣立ちを目前にひかえた高校3年生で参加した「巣立ちセミナー 」でした。

「施設の自立支援担当の先生から聞いたことがきっかけで参加しました。『参加するとポイントが貯まって、(一人暮らしに必要な)家電がもらえる 』※1  という“おいしい話”に釣られてしまいました」と笑います。

※1:B4Sの運営する、寄付品仲介「トドクン」

 

 

■「私は一人じゃないんだ」と思えた

 

ゆりあが高校3年生だった2021年はコロナ禍のさなかで、それまでは集合型で行っていた首都圏の巣立ちセミナーも、すべてオンライン開催になっていました。移動の手間がないとはいえ、8月から翌年1、2月まで毎月1回、週末に朝から夕方までオンラインセミナーに参加するのは、なかなか大変です。ゆりあは「ちょっと面倒くささはあったんですが、ボランティアの大人や、同じような境遇の参加者と会えるのが楽しみでした」と話します。

 

巣立ちセミナーでは、引っ越しの手続きや金銭管理、危険から身を守る術など、一人暮らしに必要な知識やスキルをワーク形式で学びます。「ペアやグループになって、話し合いながら進めるワークが多かったので、意見を出し合ったり、休憩時間に雑談をしたりするのも楽しかった」とゆりあ。「ワークでは、『もし友達から、お金を貸してほしいと言われたらどうするか』など、困ったときにどうするかといったテーマが難しくて、ペアになった子と一生懸命考えたのを覚えています」と振り返ります。

 

巣立ちプロジェクトでは、知識やスキルだけでなく、「人とのつながり」も大きな収穫になりました。

 

「私が参加していたグループのリーダーをやっていたボランティアの『きくちゃん』は、本当に話がおもしろくて、まるでラジオを聞いているみたいでした。みんなを巻き込むのも上手で、本当に楽しかった。ほかの参加者もみんな(児童養護施設で生活する)同じような境遇の人たちだし、ボランティアさんたちも理解がある人ばかりで、とても居心地が良かったです。『私は一人じゃないんだな』と思えました」

 

 

■アトモのイベントは今の私の“生きがい”に

 

B4Sでは、施設や里親家庭を巣立った後も、仲間とつながり続けられるよう、「アトモプロジェクト 」としてさまざまなイベントを企画しています。ゆりあも、アトモのバーベキューやクリスマスパーティーなどに積極的に参加しています。

 

「アトモのイベントは今の私の生活に欠かせません。なんだか“生きがい”みたいになっています」

 

仲良くなったボランティアや仲間たちに会えること、新しい友達を作るきっかけになることも、アトモのイベントに参加する大きな理由になっているそうです。「一般家庭で育った子たちとは、やっぱりわかり合えないところがあると感じることもあります。施設で育ったことに偏見を持っている人もいる。でも(アトモで会う人たちは)似たような境遇の人が多いので、それはやっぱりいいなと思います」

 

 

■一人暮らしは楽しみだった

 

ゆりあは現在、学生寮で一人暮らしをしています。施設で生活しているときは、退所するのが楽しみでした。「特に高校生の時はコロナ禍で、施設ではいろんな制限があったのが窮屈で、とにかく早く出たかったです。自由がある今の生活はすごく楽しいんですが、一方で、大変だと思うところもあります」

 

大変なこととして真っ先に挙がったのが「食事」です。「基本的に自炊をしています。でも、本当に余裕がない時は、コンビニやスーパーのお惣菜で済ませることもあります」とのこと。ただ、「(退所する前に)施設やB4Sで教えてもらったことがたくさんあったので、今のところ困ることは意外とないかも」といいます。「(巣立ちプロジェクトでは)家計をどうやってやりくりするか、家賃や食費を計算してみたり、体調が悪くなったときに、病院の何科に行けばいいのか調べてみたりするワークもありました。そういえば性教育もありました。結構覚えているものですね」

 

 

■「気にかけてくれる人がいる私は恵まれている」

 

日常生活や学校生活で、困ったことや悩んだことがあるときには、以前生活していた施設やB4Sを頼ることが多いそうです。「B4Sのスタッフやボランティアには、普段からB4S PORT あきばやアトモでよく話をしているので、そういった流れでいろいろ相談をすることも多いです。きくちゃんに相談することも多いかな」

 

高校3年生で参加した巣立ちプロジェクトで知り合ったB4Sボランティアの「きくちゃん」は、今もゆりあを支えています。「時々『ゆりあ、元気か!』って連絡をくれるので、そこで『彼氏と別れちゃって悲しいよー』『最近大学でこんなイヤなことがあった』と聞いてもらったりします。本当にありがたいです」。出身施設の自立支援担当職員からも定期的に連絡があり、「奨学金とか、いろいろな手続きについての話のほかにも『最近どう?』といろいろ聞いてきてくれます」と話します。

 

「私、そういう意味では、本当に運が良かったし、恵まれていると思います。施設もB4Sも気にかけてくれていて、周りが手厚い。でも、(児童養護施設を出て一人暮らしをしている人は)そういう状況にある人ばかりじゃないですから」

 

ゆりあは当初、保育士の資格を取るつもりでしたが、保育園や障害者施設などの実習が想像以上に大変だったことなどから「保育士には向いていないのでは」と悩み、資格取得はやめることにしました。その過程で「大学を辞めようと思ったことも何度かある」といいます。B4Sのきくちゃんにも相談したところ、「いったん休学してでも大学は出た方がいいんじゃないか」と言われたそうです。

 

「大学の友達にもいろいろ悩みを相談することはありますが、こういった『重たい話』はやっぱり年上の大人の人の方が相談しやすい。大学を辞めようと思った時には、いろんな人に相談したんですが、せっかくここまで頑張ったんだから、卒業はした方がいいと言われました。いろいろ考えて、ちゃんと卒業はしようと決めたところです」

 

B4Sが一番防ぎたいと考えているのが、「孤立」です。でも、困ったことが起きたとき、不安を感じたときに相談してみよう、頼ってみようと思える場所は、その時急に探して見付けられるものではありません。普段から行き慣れた安心できる場所、話し慣れた信頼できる人だからこそ、不安な心の内を開くことができるのでしょう。

 

 

■こんな場所があってよかった

 

 

最近のゆりあは、月に数回、「B4S PORT あきば」や「B4S PORT しもきた」に顔を出しています。「誰かとご飯を食べたいな、という時や、話したいな、と思う時に来ています。その日のシフト表を見て、『会いたいな』と思うスタッフやボランティアさんがいる時に会いにきたりすることもあります」

 

B4Sの居場所では、1人でのんびり過ごすも良し、誰かとおしゃべりをするも良し、みんなで食事を作って食べるも良し。何かを“しなくてはいけない”ということはありません。

 

「手作りのご飯はおいしいし、みんなでトランプをやったり、好きなアーティストの動画を見たりという時間も本当に楽しくて癒しになります。とにかくこの空間自体がアットホームで素晴らしいんです。疲れていても、ここに立ち寄るとほっとできる。こんな場所があって、本当に幸せだと思います」

 

 

■「内気で人見知りではない自分」を発見できた

 

高校3年生のときの巣立ちプロジェクトに参加し、その後もアトモプロジェクトや居場所利用などで、B4Sと繋がり続けているゆりあ。「B4Sと繋がる前と後で、自分が『変わった』と思うところはありますか?」と聞いてみました。

 

彼女は「うーん」と考え込んだあと、こんな風に話してくれました。

 

「以前はあまり人と話すのが得意なタイプではなかったんですが、B4Sでいろんな人に関わるようになって、人と話せるようになったんじゃないかな。本当は話すのが苦手というわけではなかったのかもしれないけど、高校時代はずっとコロナ禍で人と関わる機会が少なかったこともあって、内気で人見知りだったんです。でも、B4Sの巣立ちプロジェクトに参加したり、アトモプロジェクトのイベントに行ったりするようになって、『私、意外と人と話せてるじゃん』と気付きました。自分でも、前より活発になったように思います」

 

相手の目を見て、にこやかに質問に答えてくれるゆりあが、以前は「内気で人見知りだった」とはとても思えません。もちろん、内気で人見知りであることは悪いことではありませんし、そんな自分を無理に変える必要はありません。でも、自分の変化について明るく、満足そうな笑顔で語るゆりあに、「B4Sとつながっていて良かった」と少しでも思ってもらえるなら、こんなに嬉しいことはありません。

 

ゆりあは今年4月から大学4年生になりました。「卒業に必要な単位や授業のことを考えるとちょっと不安。でも、来月(5月)にはアトモのバーベキューがあるから本当に楽しみ」だと言います。

 

「これからも、アトモのイベントには出たいですし、居場所にも来たいです。年上のユース(施設や里親家庭を巣立った若者たち)の中には、ケーキ屋さんで働いていて、アトモのクリスマスパーティーにケーキを持ってきてくれたり、カメラマンになって写真撮影をしてくれたりしている人もいます。今は利用者の立場でいっぱい楽しみたいですが、私もいずれはサポートする立場にまわりたいです」

 

そう語ってくれたゆりあの今後が非常に楽しみです。B4Sは、ゆりあをずっと応援しています。

 

 

 

■運営事務局からのメッセージ

 

B4S独自で実施するセミナーやイベントは、自治体からの予算が使用できないため、みなさまからのご寄付を活用させていただいています。いつもご支援いただいている個人・法人の寄付者のみなさまに、この場を借りて感謝を申し上げます。

 

引き続きB4Sでは、虐待や貧困などで親を頼ることができず児童養護施設や里親家庭などで暮らしている子どもたちが、自立の際に直面する課題を乗り越えるために、巣立ち前から、巣立った後も、さまざまなプログラムで支援してまいります。

 

今後とも、B4Sの活動へのご支援を何卒よろしくお願い申し上げます。